アルバム「エクソダス」の世界的ヒットや来日公演時(79年)が、洋楽をよく聴いた大学時代だったので、文字通りボブ・マーリーど真ん中の世代といえる。

ギターがリズムを刻み、ベースがうねるレゲエに乗るシンプルな英語の歌詞には政治の匂いもして、学生運動が終わりかけた時代に心をくすぐられた。信仰上の理由からクシを入れないドラッドヘアや緑黄赤の色使いなど、独特のスタイルがカッコ良かった。

5月17日公開の「ボブ・マーリー:ONE LOVE」は、妻リタやザ・ウェイラーズのメンバーが製作に関わり、36年間の濃密な人生を再現している。

映画は幼少時代からガンで亡くなる(81年)までの半生を行き来しながら進行するが、クローズアップされるのは政情不安定の地元ジャマイカで銃撃された事件と、その後ロンドンに渡って「エクソダス」をレコーディングするくだりだ。

銃撃されるシーンやガンの診断を受けるシーンが象徴的だが、彼は死を恐れない。アフリカ回帰が根底にある「ラスタファリ」への信仰がいかに深かったか、そのあたりがクローズアップされて、曲作りの原動力のようなものが見えてくる。

「ドリームプラン」(21年)で注目されたレイナルド・マーカス・グリーン監督は、神懸かった言動の半面、人間くさい部分も容赦なく描く。終生の同志だった妻リタとも互いの浮気を激しくののしり合う。

コーラスを担当するこの妻との、もめながらも決して切れない心の絆にリアリティーがあり、ジンとさせられる。

商業主義と折り合いをつけながら、大成功に至る「エクソダス」の製作と欧州ツアー。会見では記者から「1日500グラムの大麻を吸うって本当ですか?」の質問も出る。

ラスタファリズムでは大麻は神聖な植物とされ、劇中のマーリーもやたらに吸っている。彼らは「ガンジャ」と呼び、レゲエの歌詞にも時々登場する。この質問を本人は否定も肯定もしない。500グラムはさすがに誇張した質問だろうが、仮に50グラムとしても紙巻きたばこにして70本分だ。この数年後の日本公演ではどうやって? 妙な疑問が頭に浮かんだ。

マーリーを演じるのは「バービー」(23年)でケン役を務めたキングズリー・ベン=アディル。本人よりちょっと明るい感じはするが、体のゆすり方やギターの扱いをリアルに再現している。

「ゲット・アップ スタンド・アップ」「イズ・ディス・ラブ」「ジャミン」などの名曲が惜しみなく使われているのもうれしい。試写後の帰路は、01年にリリースされたベスト盤の「ONE LOVE」を久々に聴きながら余韻に浸った。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)