「この植民地状態、どないもならんのどすか」。大型連休最後の夜、久しぶりに訪ねた京都。祇園の小さな割烹(かっぽう)の女将(おかみ)は、そうため息をつく。聞きしにまさる京のインバウンド狂騒。

開店と同時にどやどやとやってきて「お好み焼きクダサイ」。そこは、どこの店もお好み焼きを置いているわけではないとお引き取り願うとして、ツアーガイドから「お客さん1人につき、いくらマージンくれますか」と頻繁にかかる電話。表に出れば舞妓(まいこ)さんの前に立ちはだかってスマホをかざして警備員と小競り合い。

いつもお世話になっている個人タクシーの運転手さんの悩みも深い。毎年、青紅葉のころに来る常連さんの予約は、今年は半減した。円安で外国人客に的をしぼったホテルは1室10万円以上がザラ。日本人にはちょっと手が出ない。それでも来てくれたお客さんは食べ歩きでポイ捨てにされた串、紙皿が散らばる道路に「こんな京都は見たくない」。

店内飲食をお願いする看板も、東南アジアの訪日客も多いのに、せいぜい英語、中国、韓国語かスペイン語まで。店内が難しいなら、せめて商店街と市でイートスペースは作れないかという。

京都駅からのお客さんに「清水寺」と言われたら、1日の売り上げに相当響く。道にあふれる人の波と駐車場に列をなすマイカーで、タクシーは身動きがとれない。なにしろ清水は連休中、1日2万人の人出だった。

だけど外国人に人気なのは、この清水さんをはじめ金閣、銀閣、二条城、伏見稲荷、それに嵐山の“6カ所詣で”。ほかに行ってほしいというのが地元の本音だが、これはパリ旅行でエッフェル塔や凱旋(がいせん)門、ルーブル美術館も外してというようなもので、まず無理だ。

ここは外国人も日本人もお互い「もううんざり」とならないために、知恵のしぼりどころではないだろうか。富士山の絶景スポット前の町道のように、京都の町をすっぽり黒幕で覆うわけにはいかないのだから。

◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。TBS系「ひるおび」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。